地球儀 いつものように年代物から最新までの珍奇な物の並ぶ雑貨屋で、いつものように腕組みをした まま舟をこいだり、あちこちの棚にハタキをかけたりしていると、いつものように店の階段を上 ってくる軽やかな足音が聞こえた。 来たな、とヴェルナーは思った。 「よくもまあ、毎日飽きもせず来るもんだよな」 その、まるであきれてるといった口調に顔つきは、およそ店主らしからない。 「それがお得意様に向かって言う言葉?」 初めて会った頃にはヴェルナーのことをまるで失礼な人だと思っていたリリーだったが、最近 ではすっかり彼のそんな性格にもなれた。というか、結構楽しんでいる。 リリーは数年前に海の向こうの町からこの大陸へやって来た。今では友達も仲間も知り合いも 沢山できたが、さっぱりしていて良くも悪くも自分に正直なヴェルナーが、男の子みたいにサバ サバしているリリーにはなんだか身近に感じられた。珍しい物が好きとか、なんでも自分でやっ てみたくなってしまう所とかも似ている。ただ決定的に違う所といえば、リリーが誰とでも仲良 くなれる、天性の陽気さをそなえているのに反して、ヴェルナーにはそんなものカケラもないと いうことだ。 「ねぇ、ヴェルナーってさ、あんまり他人に関心がないの?」 ヴェルナーは、またリリーのおしゃべりが始まった、とため息をつきながら、後ろの棚にハタ キをかける作業を続行していた。 「なんだよいきなり、失礼なやつだな」 そう言いながらも、手を休める気配はない。リリーはカウンターに身を乗り出した。 「それじゃあ、あるの?」 ヴェルナーはカウンターにのった地球儀をみがく作業にうつった。 「ある時とない時がある」 リリーはひじをカウンターの上ですべらせて地球儀のそばへ寄った。 「それで、ほとんどはない時なのね」 今日はいやにからむな。ヴェルナーはふと、茶色の球をみがく手を止めて顔を上げた。リリー は、イタズラっぽい笑みを浮かべてはいるが、その大きな瞳にはどことなく真剣な様子が見て取 れた。 「リリーには関心があるぜ」 ヴェルナーはリリーの目の高さまで背をかがめて真正面からそう言ったが、次の瞬間には地球 儀に向き直り布きんを持ち直した。 「うそ」 そっけなくそう言い捨てると、茶色の球を再びみがきはじめた。しかし、リリーからリアクシ ョンが帰ってこない。変に思ってカウンターの先へ視線を戻すと彼女はほのかに赤くなっていた。 「や、やだなぁ。冗談か」 客をからかいなれてるヴェルナーに比べるとリリーはあまりにもそういう免疫がない。 場の空気に思わずヴェルナーの手がすべる。はずみで地球儀がカウンターから落ちかけた。し かし、リリーがとっさに手をのばし、その腕に抱きとめた。上の空でお礼を言ったヴェルナーは、 地球儀を大切に、元の場所へ戻す。 「地球儀、大切にしてるのね」 言われて、ヴェルナーはまじまじとその茶色い球を見つめた。 「そうか?そういえば、そうかもな」 「そうよ。しょっちゅうみがいてるじゃないの」 ヴェルナーは「そうだ」と言うと、商品棚を探った。ごちゃごちゃ置かれたわけの分からない 物の中から、ぽっかりと地球儀の球だけが見つかる。彼は得意そうな面持ちでそれをカウンター にのせた。 「こんなものもあるんだ」 そんなに好きなんだ、とリリーはなかばあきれたが、その時、ある考えが浮かんだ。 「それちょうだい」 ヴェルナーは物好きな奴だなと言うと、でも、少し嬉しそうに紙でつつんだ。 「銀貨200枚だ」 「あっあとね、星座盤とランドーも」 「またランドーを買うのか」 ヴェルナーには商売っ気が無い。 「いつもパンにランドージャムをつけて食べてるの。それに酒場の依頼でゲルプワインを作った りとか…」 リリーのことを、いつもヘンテコな物を作っていると思っていたヴェルナーには、この発言が 意外だった。 「へえっ、料理もしてるのか」 「料理?違うわよ、錬金術よ!」 「へ?」 ヴェルナーは、やっぱり訳の分からない奴だ、と思いながらも紙袋を渡し、銀貨を受け取った。 リリーといると、現実感が少し薄れる。何を考えているのか、何を目的に買い物に来ているのか すぐに分かる、他の客とはひとあじもふたあじも違う。だからやっぱり、ヴェルナーはリリーに 関心を持っていた。なんといっても“珍し物好き”なのだ。 こいつ、また明日も来るかな。 その時、階段を下りていたリリーがにわかに振り返った。 「そうだ、明日、ヴェルナーにランドージャム持ってきてあげるね!」 これが最初に書いたヴェルリリ話です…。なぜ物書きさんでもない自分がこんなものを書きだし たのかというと、リリーのアトリエ(そしてヴェルリリ)にはまった直後に旅行に行ってしまっ て、ものすごくヴェルリリに飢えていたからなのです…。攻略本は持ってきてたのですが(持っ てくるな)、プレステもネットもなく、しかたがないのでこそこそ隠れながら自分で書きました。 とにかく書ければなんでも良かったので、話もなにもあったもんじゃありませんが。 お互い気になる一歩手前な感じで。ていうか本人は気づいてないけど、気づくほんのちょっとし たきっかけというかそんなようなものを目指して。 もちろんこの先は、天球儀イベントへと続きますv (03/10) |