過ぎた日

 それは、ある日突然に起こったことなので、ヴェルナーにとってはもう詳細などは思い出せず、
印象だけが残っている。リリーと出会った日のことを思い返しても、感じるのはそのくらいのこ
とだ。

 出会いというほど風変わりなものじゃない。ただたんに、自分の雑貨屋に彼女がやってきただ
けだ。だが、この雑貨屋を普通の女の子が買い物に来るだけで珍しかったので、彼女が階段を登
ってきた時から、カウンターに肘をついたまま片目でその様子を追っていた。
 なんの目的で買い物にきたのだろう?どうしてこの店に入ってみようと思ったのか。入り口に
は大きくて変な顔のお面が置いてあって、普通の女の子はそれ以上なかなか入ってこないものだ。
 そのはじめて来た少女は、店のあちこちの商品を眺めながらカウンターに近づいてきた。見慣
れない顔だな、と気づく。
 店主に気づいた少女は、ほがらかに挨拶をしてきた。華奢な外見に反して物怖じしない態度。
ヴェルナーはなんとはなしにその少女を気に入って、初対面なのに自分にしてはずいぶん長く話
をした。この時はただそれだけで、その少女がこの先、自分と予想外に仲良くなるとは思ってい
なかった。

 それはリリーのほうも同じだったのだろう。いつかリリーから、やっぱり最初にこの店に入っ
たときは気味が悪かったし、ヴェルナーに会ったときはとっつき辛そうな人だと思ったと聞いた
ことがある。
 それが今では、二人で話している時がかけがえのない時間になっているのだ。あの時と、なに
も変わってはいないのに、カウンターごしの会話も、その内容のたわいなさも。ただ、二人の気
持ちがあの時とはお互いにちょっと変わっているだけなのだ。








初めて会った時ってどうだったっけな?と後からなんとなく回想するヴェルナー。 (03/11)